製造業における、IBM SPSSを使った品質管理最適化事例

   

センサー技術の進化や分析手法の発達にともない、多くの製造業が品質管理を目的として、事業活動から生まれる多種多様のデータをモニターし、結果をスプレッドシートに記録する事例が増えてきました。しかし、その大量のデータから、因子分析、分散分析、重回帰分析などを通じてインサイトと事実を引き出すためには、相当な時間と労力を必要とします。そうしたデータ分析の効率化ニーズにこたえるのが、IBM SPSSです。

IBM SPSSは膨大なデータを素早く分析できるため、数日分の仕事を数時間で終わらせることが可能であり、改善のためのインサイトを容易に発見することができます。IBM SPSSの導入によって、製造工程におけるすべての段階を最適化し、利益を拡大させた企業は少なくありません。本記事では、2つのIBM SPSS導入事例を紹介します。

IBM SPSSで品質基準の合格率を92%から97%に
ライフスキャン社の予知保全事例

血糖測定用試験紙の予知保全で糖尿病患者に安全を

ジョンソン・エンド・ジョンソンの傘下企業であるライフスキャン社は、糖尿病患者のための血糖測定器と試験紙を製造しています。毎日およそ300万人の糖尿病患者がライフスキャン社の製品を利用しています。主力商品は血糖値を測定する試験紙で、その試験紙を使ったテスト結果をもとに、患者へのインスリン投与量が判断されます。このため、ライフスキャン社は、製造工程での精密さと安全性を特に重要視しています。 測定器で使用する試験紙については、年間の製造工程が5000回と、膨大な量を製造しています。安全性を犠牲にせずに、予知保全によって試験紙の製造工程を最適化することは、ライフスキャン社にとって非常に重要な経営課題でもあります。 ライフスキャン社は安全性を担保した上での生産性向上を図るため、SPSS Statistics BaseとSPSS Statistics Standardを導入しました。そして、現行製品や新製品の製造工程における品質保全をモニターし、収集したデータの分析を開始。線形回帰分析や許容差分析、抜き取り検査、予測区間、動作特性曲線、管理図などの分析によって、製品を多面的にチェックすることで、予知保全に取り組みました。

IBM SPSSを使った管理図分析で、欠陥の早期発見とコスト削減を

特に大きな成果をもたらしたものの1つは、統計管理図です。製造工程の全ステップにおいて管理図分析を実践することによって、これまでより早い段階で異常を発見できるようになりました。また早期の異常検知によって、本格的に製造工程を開始する前に欠陥を特定し、修正する予知保全を実現しました。このように欠陥の早期発見を実現したことで、欠陥品から顧客を守り、自社資源のロスを避けるといった効果が生まれています。 ライフスキャン社はSPSSの徹底的かつスピード感のある分析によって、出荷テストに合格できる製造ロットの割合を92%から97%へと向上させることができています。

また、蓄積されたデータは、外部監査をスムーズにクリアすることも可能にしています。ライフスキャン社は価格、複数のユーザー機能という面でSPSSを選択し、その機能を活用しています。いまやSPSSはライフスキャン社のビジネスに欠かせないものとなったのです。

“SPSSはまさにLifeScanの製品品質の活力源だ。” -Scott Dickinson, Manager, Quality Lab Services

[AITデータサイエンティストの視点]

(担当者 たくみ)AITデータサイエンティスト: 分析経験豊富なベテランデータサイエンティスト (担当者 あおば)AIT SE: SPSSを覚えたての新米SE あおば: 製造業で5%の歩留まり改善というのはそんなにすごいことなんでしょうか? たくみ: 小さな数字に見えるかもしれないけれど、これはビジネスに多大な恩恵をもたらしている。 ライフスキャン社は多くのロットを生産しているため、非常に大きなコスト削減となっているね。 あおば:センサーデータというと非常に大量なデータの場合もあって、とても人が目で見て追い切れるようなものではないですよね。 たくみ:そうだね。製造工程には非常に多くのパラメーターがあって、パラメーターを個別に観察していても分からないこともある。数多くの因子を人間の目で判別するのは限界があり、複数のパラメーターにある相関を、いかに効率的に発見できるかが重要だね。 あおば:製造過程におけるデータを元にしたグラフからも何か分かるんですか? たくみ: 実はグラフマイニングという手法は、そのグラフの波形から予兆を察知し、予知保全に活かすことができるんだよ。従来であれば非常に時間がかかっていたデータ分析にかかる作業を、IBM SPSSが肩代わりしてくれることで、簡単かつ網羅的に製造工程の状況を把握できるね。

ダイムラー社の予測分析事例 IBM SPSSを通じてシリンダーヘッドの生産効率を25%増に

複雑な製造工程、大量データによる分析工数増大を克服

予測分析による生産性効率向上を実現したダイムラー社は、シリンダーヘッド製造工程のひとつでIBM SPSS Modelerを導入しています。大手高級自動車企業(Mercedes-Benz)として高品質な製品を提供し続けている同社は、ドイツのシュトゥットガルト工場において、毎日1万個のシリンダーヘッドを製造。その製造工程はとても複雑で、鋳造所での鋳型製造から、機械的表面処理に至るまでは長い道のりです。シリンダーヘッドのさらなる生産性向上のために、IBM SPSSを使ったデータマイニングソリューションが適用されました。

ダイムラー社は以前から製造工程の分析を実施していたため、製造ラインのシステムが、すべてのフェーズにおけるデータを記録していました。記録されていたデータは寸法、時間、温度、道具などの製造工程における因子が500種類以上。同システムは漏れなくデータを記録していましたが、データ量が膨大であり問題の原因を見いだすことは困難を極めました。経験のあるスペシャリストでも有益なインサイトを発見するまでに数日間がかかっていたのです。

数日間の作業が数時間で完了。予測分析にかかる工数が激減

IBM SPSSは、ダイムラー社が保持する大量のデータを的確に予測分析して、重要なデータやインサイトを迅速に特定。結果として数日間を費やしていた分析作業が数時間の作業となり、たった1人のスペシャリストでシステムの管理と結果レポートを作成することが可能となりました。分析結果の抽出後には、分析レポートを工場責任者6人に送付し、各責任者が自身の担当している工程における具体的な状況を知り、最適化をすぐに始められるようになりました。

IBM SPSSを導入した新たな取り組みにより、ダイムラー社では製造効率が25%向上しています。分析作業を数日間から数時間へと短縮できたおかげで、予測分析を毎日実施できるようになりました。そのため、ほぼリアルタイムでの予測を実現しており、欠陥品の回避、あるいは生産性向上に必要な調整をよりスピーディーに実行することが可能となっています。

以前からダイムラー社の各工場には製造目標レベルが定められています。目標達成に向けた製造工程の最適化には、数年を必要としてきましたが、IBM SPSSの導入によってその時間は半分に短縮されました。

IBM SPSSを活用した予測分析、製造工程の改善は、圧倒的な成功を挙げ、ダイムラー社は1種類のシリンダーヘッド製造工程だけではなく、すべての製造工程でIBM SPSSを導入、展開し、製造工程のさらなる改善を続けています。

[AITデータサイエンティストの視点]

(担当者 たくみ)AITデータサイエンティスト: 分析経験豊富なベテランデータサイエンティスト (担当者 あおば)AIT SE: SPSSを覚えたての新米SE あおば:製造効率25%改善というのはすごそうな数字ですね。 たくみ:そうだね。不稼働時間を25%減らしたのと同じことで、コスト削減の面でも大きな意味があるね。さらに、分析にかかるワークロードと日数の劇的な改善の度合いも高い。 あおば:ダイムラー社は数時間でレポートを出せるようになったということなんですね。これは例えば午前中の分析結果を午後に把握し、即座に改善施策を実施するスピードを身に着けたと考えてもいいですね。 たくみ:そうだね。シリンダーヘッドのような複雑な製品は、工程における因子が多く、相関関係を網羅的に確認しようとすると、その組み合わせはとても膨大になるんだ。それを短時間で実施し、レポート(事実)を元に改善策を説明できるようになったんだよ。通常、ラインの許容値などは一回設定したら変更されないことも多いのだけれど、 この事例では、データを元に改善すべき点が説得力を持って明らかになっているはず。これはIBM SPSS によるところが大きいだろうね。 あおば:製造業の現場では安全性が第一のKPIになっていることも多く、それが働いている人たちのモチベーションでもあると聞きます。 たくみ: その通り。単純に利益や効率のみを追求すれば良い訳ではないんだよ。状況を網羅的に把握、分析し、安全な製品を作る現場でも、IBM SPSSは使えるんだ。


原文はこちら:http://www-03.ibm.com/software/businesscasestudies/