実体験で語るAIの真価:システム化を巡る失敗で振り返るアナリティクスの効力(前編)
文 = 増田 武史 AIT ソリューション営業本部アナリティクス&サービス営業部 部長
筆者はAITに入社する以前、約30年の長きにわたり、大手の金融機関やSIerで働き、ときにはITソリューションの利用者として、またあるときはITソリューションのプロバイダーとしてITによる業務の効率化やビジネス変革と向き合ってきました。その中で遭遇した幾度かの苦い経験を振り返るとき、浮上してくるのがデータ分析ソリューションやAIの価値であり、有効性です。
苦い経験に学ぶ
私は1993年に新卒入社で都市銀行に入行し、社会人としての第一歩を踏み出しました。
入行当初、私は営業を担当していました。ただ、のちに銀行の事業がITによって支えられていることを知り、IT部門への異動を決断。海外勘定系システムや国際CMS商品の開発などに従事するようになりました。以降、金融系のシステムに関する経験と知見を生かすかたちで、ネット系の金融機関やSIerなどでキャリアを積み、今日に至っています。
現在所属するAITでは、ソリューション営業本部でアナリティクスのソリューションであるデータ分析のシステムやAIの普及に力を注いでいます。
私は、AIをはじめとするアナリティクスのテクノロジーに強い思い入れがあります。その思いは、過去における苦い経験によるものです。言い換えれば、過去における失敗の経験から、データ分析のソリューションやAIを活用することが、企業にとっていかに重要で有益かを、肌身をもって知っているということです。以下、その点について少しお話させてください。
業務負担の急増で直面した最悪の事態
IT分野での長い経験の中で、いまでも鮮明に記憶している苦い経験の1つは、金融機関(以下、A社とする)で直面した事態です。
A社はきわめて小規模な金融ベンチャー企業でした。たまたま地上波のテレビでA社が紹介されたことから、いきなり1日数百件の申し込みが殺到。業務担当者の負担が一気に跳ね上がり、お客様への回答が遅れに遅れて、多大な迷惑をお客様にかけることになりました。そして最終的には、日々の業務に忙殺された業務担当者の1人が疲労困憊し、私の目の前で倒れてしまうといった最悪の事態に陥ったのです。幸い大事には至りませんでしたが、体調の回復に時間がかかり仲間に大変な苦労を強いることになってしまいました。
もちろん、業務担当者の負担を低く抑えるために、申し込み手続きや業務プロセスをかなりのレベルまでシステム化・自動化していました。それでも、私が考えた業務プロセスには、専門家である業務担当者が自らの知見や経験に基づき判断しなければならない部分がかなり残されており、それがボトルネックとなって大きな業務負担を生むことになったのです。
AIによる支援があれば業務負担をもっと圧縮できていた
上の事態に直面したとき、当時の私たちが打てる手だては、業務担当者やアシスタントを増員することだけでした。というのも、業務に関して相応の専門知を持った人間と同等の判断力を持ったシステム(=業務担当者のアシスタントとして機能しうるシステム)が開発できなかったからです。
それが今日では、AIのテクノロジーが目覚ましい発展を遂げ、AIで扱えるデータの量も爆発的に増えています。ゆえに、業務担当者のアシスタントとして機能しうるAIのシステムは、リーズナブルなコストで十分に開発が可能な時代になりました。つまり、今日ならば、AIによる支援のもと、1日数百件のお客様の依頼でもごく少数の担当者で難なくさばけるシステムが作れるということです。
前出のA社においても必要な全業務のうち20%程度をシステムによって自動化できていたと思いますが、それに加えて、今日のようなAIを使うことで、残りの80%の業務を20%くらいまで削減できた(要するに、かつての4分の1程度に圧縮できた)と見ています。それができていれば、担当者が疲弊して倒れてしまうようなことも、お客様を必要以上に待たせてしまうようなことも起きなかったはずです。
(後編へ続く)
筆者紹介
AIT ソリューション営業本部アナリティクス&サービス営業部 部長
増田 武史